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誣告と讒言を憎む評論。

平成30年 民事系第3問(民事訴訟法)答案練習

設問1

第1 課題(1)

 1 AのBに対する訴えについて

 (1) Aが不法行為による損害賠償請求訴訟の提起をした場合、この訴えは重複訴訟にあたり不適法となるか。

 (2) 142条が重複訴訟を禁止する目的は、訴訟不経済の防止、応訴負担の軽減、裁判の矛盾の防止にある。

 この目的を達するためには、両事件における当事者の同1性と訴訟物の同1性が認められる訴えが禁止すればよい。

 ただし、これら要件に該当する場合であっても、民事訴訟は権利実現のための制度でもあるから、重複訴訟の禁止の目的に照らして訴えの適法性を個別具体的に判断し、できる限り不適法とすべきではない。

 (3) 当事者の同1性についてみるに、Bの提起した訴えの当事者はAとBであり、Aの提起しようとする訴えの当事者もAとBである。原告と被告が入れ替わっているだけで当事者は同1である。

 (4) 審判対象の同1性についてみるに、Bの提起した訴えの訴訟物は本件事故によるAの不法行為による損害賠償請求権であり、Aの提起しようとする訴えの訴訟物も本件自己によるAの不法行為による損害賠償請求権である。

 Bの提起した訴えの訴訟物は150万円を超えない部分であり、他方、Aの提起しようとする訴えの訴訟物は全額部分である400万円であるから、両訴訟物には250万円分の重なりが認められる。

 よって、訴訟物の同1性も認められる。

 (5) しかしながら、重複訴訟の禁止の目的に照らし、訴訟不経済や応訴負担の増加、裁判矛盾のおそれ、これらがない場合には重複訴訟の禁止にあたらず、不適法ではない。

 そこで、反訴についてみるに、反訴は公平のために被告にも関連する請求の追加を認めるものであり、原則として訴訟不経済を回避し、応訴負担の増加もなく、裁判矛盾のおそれもない。

 本問においても、審理が1体になされるのであるから訴訟不経済にはならず、同1の裁判所で併合審理を行うのであるから、応訴負担を増加させるものでもないし、裁判矛盾おそれもない。

 よって、Aは反訴としてBを被告とする不法行為による損害賠償請求訴訟を適法に提起することができる。

 (6) したがって、AのBに対する訴えは適法である。

 2 Cを共同被告とすることについて

 (1) 上記を踏まえれば、Aが反訴においてCを共同被告として引き入れることとなるため、いわゆる明文にない主観的追加的共同訴訟となる。 

 明文にない主観的追加的共同訴訟を認めるにあたって緊張を要する理由は、審理の進行が追加される訴訟当事者にとって不意打ちとなるものではないかという点にある。他方において統1的解決のためには共同訴訟を認めるべきであるといわねばならない。

 そのため、明文にない主観的追加的共同訴訟が認められるためには、訴訟当事者の利益を害する程度に審理が進行していないこと、共同訴訟としての提起可能な要件を充足していることが要求される。

 (2) そこで、審理の進行についてみる。

 本問ではいまだ第1回口頭弁論期日に至っておらず、反訴においてCが共同被告とされたとしても既に審理が進行していてCにとって不意打ちとなるということはない。

 よって、いまだ訴訟当事者の利益を害する程度に審理が進行していないといえる。

 (3) 次に、共同訴訟として提起可能な要件を充足しているかをみる。

 通常共同訴訟が問題となるか必要的共同訴訟が問題となるかは、合1確定の必要があるかどうかで判断するものであり、合1確定の必要のないものは通常共同訴訟となる。

 AのB及びCに対する訴えは、いわゆる共同不法行為に基づく損害賠償請求訴訟であるから、合1確定の必要がないといえるため通常共同訴訟が問題となる。

 通常共同訴訟として訴えの提起が許される要件は、訴訟の目的となる権利義務が事実上、法律上同1の原因に基づくことである(38条1項前段)。

 38条の制度目的は統1的解決をするために共同被告とすることができるようにするところにある。そのため、権利発生原因となる共同不法行為がある場合には、共同不法行為者を共同被告とすることができるというべきである。

 訴訟の目的となっているのは共同不法行為に基づく損害賠償請求権であり、ここでの共同不法行為はB及びCによってなされたものである。そのため、訴訟の目的となる権利義務が事実上かつ法律上同1の原因に基づくものといえるのであるから、B及びCを共同被告とすることができる。

 (4) したがって、Aの反訴においてCを共同被告とすることは、明文にない主観的追加的共同訴訟として認められる。

 

第2 課題(2)

 1 Aが甲地裁において訴えを提起することは、重複訴訟の禁止に反するかどうかが問題となる。

 (1) 重複訴訟の禁止にかかる要件は上記第1と同様に充足し、訴えが不適法となるかの判断にあたっても同様に重複訴訟の禁止の目的に照らし実質的に判断すべきである。

 (2) 訴訟不経済や応訴負担の増加、裁判矛盾のおそれについて

 Bが乙地裁に提起した訴えを甲地裁に移送すれば、弁論を併合することができるため、訴訟不経済や応訴負担の増加もなく、同じ官署としての裁判所での訴訟係属となるから裁判矛盾のおそれもない。

 したがって、Bの訴えが甲地裁に移送され、弁論が併合されれば重複訴訟の禁止に抵触することにはならない。

 2 そこで、移送について述べる。

 (1) 17条による移送は、事件の迅速かつ終局的な解決と手続が衡平に経られることを目的とする。そのため、17条の移送が認められるには、当事者間の衡平を図るために必要があると認められること、当事者の申立てまたは職権による決定があればよい。

 (2) 本問を見るに、Bの訴えについて移送が認められなければ、先に訴えを提起してしまえば有利な裁判所にて事件が係属され、A及びCの居住地に近い甲地裁に係属させることができる地位を消滅させる結果となり、当事者に衡平を欠くこととなる。

 (3) また、事件の終局的解決という観点からみると、Bの提起した訴えにおいては訴訟物となっていない損害賠償請求権の150万円以内の部分については訴訟物に重なりが認められないことから、終局的解決のために移送を認め、後訴と弁論の併合をして審理すべきであるということができる。

 さらに、Bの訴えとAの訴えとでは判決の効果が異なり、Aの訴えは給付判決であって債務名義を得ることとなる。この点からもBの訴えとAの訴えは併合審理されるべきであるといえる。

 (4) なお、Bの訴えについてはいまだ第1回口頭弁論期日を経ておらず、審理が進んでいないことから、Bにとっての不意打ちにもならないだけでなく、Aの訴えによって2度手間となり迅速な解決を害するということもないといえる。

 (5) したがって、移送は認められるべきである。

 3 弁論の併合が認められるには、請求の併合が認められなければならない。

 請求の併合が認められるには、原則として同種の訴訟手続であることが認められれば足りる(136条)。

 Bの訴えとAの訴えはいずれも民事通常訴訟であるから、同種の訴訟手続である。

 よって、請求の弁論は認められ、弁論の併合が認められる。

 四 したがって、Aは甲地裁において適法に訴えを提起をすることができる。

 

設問2

第1 220条4号ハ

 1 Aの診療記録に関する文書送付嘱託ないし文書提出命令の申立てについて、220条4号柱書における1般義務文書として文書提出義務が認められるかどうかにあたり、同条同号ハにおける197条1項2号に規定する事実で黙秘の義務が免除されていないものにあたるかどうかが問題となる。

 2 そもそも、1般義務文書として文書提出義務が認められるとすべき理由は、真実発見を目的とする適正な審理の実現を確保するところにある。

 このような制度目的にありながら、220条4号ハにおいて医師の職務上知り得た事実で黙秘の義務を免れていないものが記載された文書について例外的に文書提出義務を免れるとする。その理由は、患者として診療を受けた者の秘密の利益を保護することによって専門職業の信頼を確保することで専門職業の存立を保護するべきところにある。

 しかしながら、秘密の利益を受ける者が訴訟当事者となっている場合には、その訴訟当事者が提出義務を負うときには文書所持者は220条4号ハにいう職務上の秘密を理由として文書提出を拒むことができないと解する。

 3 Aの診療記録はプライバシー権の観点から秘密の利益の要保護性が認められうる。

 しかし、Aの診療記録は1部がA自身によって書証として既に提出されている。また、本問は不法行為による損害賠償請求権が訴訟物となっており、損害額が争われているのである。

 損害額は損害の程度との因果関係によるのであるから、因果関係についての真実発見の要請は極めて高いものといわなければならず、因果関係を明らかにするべく診療記録全体の提出が認められるべきである。

 よって、AはD病院の診療記録について提出するべき義務を負っているということができる。

 4 したがって、D病院はAの診療記録全体について提出する義務を負う。

 

第2 220条3号前段

 1 220条3号前段によれば、利益文書の文書所持者は文書提出義務を負う。

 220条3号前段は、挙証者の利益のために作成された文書が挙証者のために利用することができることを目的とするものである。

 よって、利益文書に該当するというためには、その文書が挙証者の利益のために作成されたことを要する。

 ここにいう挙証者の利益のためとは、専ら挙証者の利益のためという意味ではなく、文書作成の目的の1部が挙証者の利益のためであれば足りる。

 2 診療記録を作成する目的は診療行為の適正の確保や客観的な症状・容体と診療行為の因果関係の挙証のためというところにある。

 因果関係の挙証は被害者のみが行うばかりではなく、加害者の利益もそこに含まれるものということができる。

 3 そこで本問をみるに、Dの作成した診療記録は被害者Aによる因果関係の挙証のみならず、加害者Bによる因果関係の挙証のために利用する利益も含まれているということができる。

 4 よって、Dが診療記録を作成した目的の1部には加害者Bの利益も含まれているということができる。

 5 したがって、Dの診療記録はBの利益文書にあたるということができるため、Dは診療記録全体について提出する義務がある。

 

設問3

 第1 (ア)について

 補助参加の申出は訴訟行為と共にすることができる(43条2項)。また、補助参加人は訴訟行為として上訴の提起をすることができる(45条1項)。

 したがって、(ア)の理由は失当であるといわざるをえない。

 第2 (イ)について

 Bが補助参加人として認められるかどうかが問題となる。

 1 補助参加の制度目的は、訴訟の結果について利害関係を有する者に訴訟手続に関与する機会を与えることにより、主たる当事者を有利にすることで真実発見に資することにある。

 補助参加が認められる要件は、他人間の訴訟の存在、訴訟の結果について利害関係を有することである。

 (1) 他人間の訴訟の存在

 本問を見るに、BはA及びC間の訴訟について補助参加するものであって、他人間の訴訟が存在している。

 (2) 訴訟の結果について利害関係を有すること

 ここにいう訴訟の結果についての利害関係とは、判決により、補助参加人の法律上の地位に対する事実上の影響力を有することをいう。

 BはCと共同不法行為をしたものであって、BとCは連帯債務を負うという関係に立つものである。

 そのため、Bは単独で責任を負うよりもCとの連帯債務により責任を負う方が請求を受ける不利益が軽くなる関係にある。

 すなわち、Cの共同不法行為が認められる際には、不法行為者というBの法律上の地位に対して連帯責任となることにより請求を受ける不利益が軽くなるという事実上の利益が存在する。

 よって、Bは補助参加の利益を有する。

 (3) したがって、Bは補助参加人として補助参加しうるのであるから、(イ)については妥当ではない。