令和を駆け抜ける

誣告と讒言を憎む評論。

天皇に関する随筆

 

 ドイツの法学者ローレンツ・フォン・シュタイン博士は明治憲法を作ることに協力してくれたことで知られる。

 シュタイン博士は、海江田信義子爵に伴った丸山作楽氏より日本の神話や歴史を説明してもらい、次のような言葉を残した。

 どうも日本という国は古い国だと聞いたから、これには何か立派な原因があるだろうと思って、これまで訪ねてきた日本の学者や政客などについてそれをたずねても誰も話してくれない。

 私の国にはお話し申すような史実はありませんとばかりで、謙遜ではあろうが、あまりに要領を得ないので、心ひそかに遺憾におもっていたところ、今日うけたまわって初めて宿年の疑いを解いた。

 そんな立派な歴史があればこそ東洋の君子国として、世界に比類のない、皇統連綿万世一系の一大事蹟が保たれているのである、世界の中にどこか一か所ぐらい、そういう国がなくてはならぬ、というわけは、今に世界の将来は、だんだん開けるだけ開いて、揉むだけ揉んだ最後が、必ず争いに疲れて、きっと世界的平和を要求するときがくるに相違いない。

 そういう場合に、仮に世界各国が集まってその方法を議するとして、それには一つの世界的盟主をあげようとなったとする、さていかなる国を推して「世界の盟主」とするかとなると、武力や金力では、足元から争いが伴う。そういう時一番無難にすべてが心服するのは、この世の中で一番古い尊い家ということになる。あらゆる国々の歴史に超越した古さと貴さを有ったものが、誰も争いえない世界的長者ということになる。そういうものがこの世の中に一つなければ世界の紛乱は永久に治めるよすががない。

 果たして今日本の史実を聞いて、天は人類のためにこういう国を造って置いたものだということを確かめ得た。

  この言葉は、田中巴之助の著書『日本とは如何なる國ぞ』(30頁)に記載されており、シュタイン博士と会った海江田信義子爵から高崎正風に伝えられ、高崎正風から田中に伝えられた。

 ※ちなみに、この言葉に酷似したものが「アインシュタインの予言」として戦後に流布したらしいが、そちらはおそらくガセであろう。

 

 上記のシュタイン博士の言葉を鵜呑みにして思考停止して信奉してはならないが、初代天皇神武天皇すなわちハツクニスメラミコトから126代目にあたる今上天皇陛下まで続いたことは奇跡であって、その希少性の観点のみからいっても、日本あるいは世界にとって決して失ってはならないものだということは断言せざるを得ない。

 皇統と血統が本当に続いているのかと訝しむのも当然の疑いでもある。続いていないと疑うことも容易であるが、他方において、もし本当に続いていたら皇統を途絶えさせたとき日本はかつてよりはるかに裕福な国になったのに途絶えさせるということとなる。それは永久の国辱である。

 

 日本において、世界において、天皇はその希少性ゆえただいるというだけであまりにも権威が強い。

 この権威を封印するのではなく、まして消滅させるのではなく、うまく位置付けることこそが国民主権に委ねられた我々日本国民の責務である。

 徳川時代のように各藩の力を削ぎながら支配下に置くのではなく、明治時代のように日本全体の力を集結するために中央集権国家をつくりあげるべく天皇を欲することもあれば、その他国家の改革のために天皇天皇の親政に着目することもある。

 我々は天皇に如何なる役目を担っていただくべきなのか。今という時代において、日本において最も日本全体の結束の必要な領域・課題は何なのだろうか。

 これだけの字数で説明しておきながらきわめて軽薄な問題意識だが、憲法改正の議論も進めようという世論のなかでは、天皇の果たしてきた役割を踏まえて、現在における天皇の位置づけを決めておくべきなのである。

 

 ちなみに、今上天皇の血統さえ継承すればよいというような観点から、いわゆる「女系天皇」を容認する声が多いと聞くが、それは今上天皇陛下の血統を継承しただけのことで、皇統を維持するという観点からいえば全く意味がない。

 初代天皇である神武天皇の血統とお姿を一代たりとも途絶えることなく継承し、顕示し続けなければならない。神武天皇は男性であった。一代たりとも男子のお姿を途絶えさせてはいけないのである。そして、その男子のお姿を継承した者が天皇となるべきである。皇統というものはこの126代、そうして続いてきたのである。

 女系天皇とは異なるいわゆる「女性天皇」の即位については、男系の女性のみが即位できるという前例がある。この前例も、次に天皇となるべき男系男子のための中継ぎのために認められたものに過ぎない。

 この程度のことは「男系」が皇嗣の要件になっていることから容易に想到するはずであるが、元宮内庁長官旧宮家復活を実現しないで女性皇族という皇統の維持のために全く意味をなさないものに目を向けさせて詐欺的に皇統を維持する振りをしようという始末である(皇位継承問題関連記事集成〔1〕。これはもはや皇統を断絶しようという完全な悪意があるものと断ぜざるを得ない。

 ただただ、座して死を待つようなこの状況に私は恨みを覚えるばかりである。